西陣織の歴史と特長について2部に分けて記事を書きます。今回は、西陣織の歴史と特長|「西陣織の歴史と特長|ろ」です。前回は「西陣織の歴史と特長|い」です
西陣織の歴史
西陣織の起源は5世紀から6世紀にかけての古墳時代にまで遡ります。渡来人である秦氏によって伝えられた養蚕と絹織物の技術は、平安時代に官営の織物工房で発展し、織部町という職人の集まる町が形成されました。
平安時代(794年~1185年)には、朝廷用の錦・綾・紬・羅などの織物が作られ、これらの高級織物は貴族や皇族に愛されました。室町時代(1336年~1573年)になると、大舎人町で生産される絹や綾は高品質で珍重され、「大舎人座」と呼ばれる組織が誕生しました。
応仁の乱(1467年~1477年)後、大阪の堺に避難していた職工たちは京都に戻り、西陣地区で織物業を再開し、紋織技術を確立しました。この時期に、現在の西陣織の基礎が築かれました。この頃に応仁の乱の時に「西の陣」が張られた一体だという事で「西陣」を呼ばれるようになりました。
空引機が導入され、紋織が盛んになり、高級絹織物・西陣織の基礎が築かれ、産地としての西陣が確立されました。
明治維新後、西陣はフランスのリヨンに留学生を送り、先進技術であったジャカード織機を取り入れました。これにより、西陣織は近代化に成功し、現在の多品種少量生産の特徴を持つようになりました。
ジャカードが導入される以前の空引機(下記の画像)は現在は西陣織会館で復活されています。一般ではジャカードを装備した手機・動力織機・レピア機・エアージェット機などをつかい紋織りが織られています。
現代でも西陣織は多品種少量生産を特徴の一つとしています。300社近くある織屋それぞれが、得意な技法や素材を使って製織、有名な帯・宗教金襴・ネクタイ・表装・傘・ショールだけではなく、インテリア用途など新しい製品も生産しています。西陣では伝統的な素材や技術を守りつつ、新しいデザインや用途に合わせた製品開発をしています。
制作工程(当社の場合)
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図案(ずあん)作成
西陣織は織り上がった生地に染色していくのではなく、先染めした糸を使って生地を織る製法です。そのため、織り上がりのイメージを想定した図案を企画する必要があります。図案家は、顧客から注文を受け、顧客のイメージ通りの図柄に図案を描きます。これは意匠のすりあわせの為に何度も修正を行います。
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紋意匠図(もんいしょうず)
次に設計図を作ります。これを紋意匠図といいます。方眼紙のような紙(正方形ではなく、製織する織物の経緯比に即したマス目)に拡大した図案を投影させ、鉛筆で型を書き写す「マワシ」、マス目に併せて色を塗る「ハツリ」を行なっていました。マス目で、ジャカート織機の経糸(縦糸)と緯糸(横糸)の組み合わせを示します。紋意匠図には糸色のほか、生地が織りやすいように工夫されたさまざまな情報や指示も盛り込まれています。今ではフォトショップなどのデジタルデータで描くことが多くなっていますが、デジタルと言えど、荒いドット絵のようなものなので、ドット一つ一つを描いていきます。
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紋彫(もんほり)
織り機が紋意匠図の情報を読み取って図案通りの図柄を織り上げるために、紋彫という作業を行ないます。紋彫とは、紋紙(もんがみ)という紙に穴を開けていくことで、経糸と緯糸が上下する位置や色糸の組み合わせといった情報を一マスずつ指定する方法です。ピアノ式紋彫機などの機械を使って、正確に穴を開けていました。今ではコンピュータグラフィックによる処理が普及し、紋紙は実物の紙ではなくて、GGSデータとして作られます。下記の写真は、当社の手織用の、前機械用の小さな組織用の紋紙です。これは製織するための情報量が少ないので、手で穴をあけることも可能です。
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撚糸(ねんし)
絹糸の準備。撚糸と呼ばれる作業に出します。これは複数の絹原糸を撚り合わせ、糸の太さを調整します。さまざまな太さの糸を撚り出すことで、西陣織特有の風合いを生みます。これは織る製品に合わせて様々な太さの絹糸を使い分けます。
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糸染(いとそめ)
絹糸を練りに出します(精錬)。染屋が絹糸の不純物(フィブロインと呼ばれるタンパク質とセリシンと呼ばれる膠(にかわ)状のタンパク質や蝋などの天然不純物)を取り除き、輝く白い糸に仕上げます。そして発注した通りの色合いに糸染を行ないます。当社は染めの色も多い為、少量づつの染となるので、染職人の勘が大事な「勘染め」で染めています。
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糸繰(いとくり)
経糸と緯糸を糸枠に巻き取る糸繰を行ないます。かつては手動で糸を巻き取っていましたが、現在は機械による糸繰が主流です。
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整経(せいけい)
織物に必要な何千本もの経糸は必要量の長さに揃えて織ることができるように「ちきり(ビーム)」と呼ばれる織機にセットする丸い筒に巻きます。この作業を整経(せいけい)といいます。
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綜絖(そうこう)
経糸を織機にセットする時に糸や針金で出来た綜絖と呼ばれる部分に通します。これは、経糸と緯糸が西陣織の複雑な柄を編み出すための重要な工程です。
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緯巻(ぬきまき)
緯糸として織り込むため、糸を細竹状の管に巻き付けます。
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製織(せいしょく)
製織には手機(てばた)・動力織機(どうりょくしょっき)・綴機(つづればた)。レピア機・エアージェット機が用いられます。近年はレピア、エアージェットが普及してきましたが、金襴などの絹を多用した繊細な織は手機や力織機によってゆっくりと織る必要があります。
これらの工程を経て、西陣織はその繊細な織物を世に送り出しています。伝統的な技術と現代のニーズが融合した西陣織は、日本文化の象徴として、今もなお多くの人々に愛され続けています。
西陣織の未来
西陣織は、長い歴史と高度な技術によって支えられています。現代のニーズに応える新しいデザインや技術を取り入れることで、その伝統を未来に繋げています。また、持続可能な制作環境を整えるために、職人たちへの還元や地域の環境負荷の軽減にも取り組んでいます。西陣織の美しさと技術の高さは、日本文化の象徴として今もなお多くの人々に愛されていますが、今後もこの織物を守り伝えていく為に私たちは新しい行動をとる必要があります。
西陣織の歴史と特長について2部に分けて記事を書きました。「西陣織の歴史と特長|い」と「西陣織の歴史と特長|ろ」で、西陣織の歴史と制作工程を通じて、知って頂きたいと願っています。興味のある方は、ぜひ一度実物をご覧になってください。
「西陣織の歴史と特長|い」
「西陣織の歴史と特長|ろ」