こんにちは。西陣織 金襴を織っている西陣岡本です。
布が大好きな者として違和感のあることがたまにあります。
編み物を出展した時に「素敵な織物ね」、織物を出展した時に「これはどうやって編むの?」等という感想・質問をいただきます。
そして弊社の織物には「浮き紋」という技法を使用し、緯糸をたくさん浮かせている織物があるのですが、「これは素敵な刺繍ですね。」等とお褒めをいただきます。
そこで、今日は以下の事について少々語ってみたいと思います。
布地とは繊維から作った平たい布
織物とは
経糸と緯糸を交互に組み合わせて作られる布地です。経糸の密度によって、布地の雰囲気が大きく変わります。基本的な織り方には、平織り、綾織、朱子織があります。
- 平織り: 最も丈夫で、基本的な織り方です。
- 綾織: 平織りより強度は劣りますが、美しい模様を作ることができます。
- 朱子織: 強度は最も弱いですが、経糸の艶を活かした光沢のある布地になります。
下の図は左から平織り、綾織、朱子織です。白が経糸、黒が緯糸だとお考え下さい。基本の3種類の織物です。
上の組織は弊社で言えば地の組織。当社の金襴で平織りを使うのは夏物で、平紗などと言われる布地が弊社の夏物の布地です。筆者が織物データを作るときには朱子(サテン)を多用する事が多いです。
西陣織が刺繍と間違われるのが以下の点です。写真をご覧下さい。
下の画像の布地の特徴は紺色の部分が経糸が見えている地の組織部分。こちらは朱子織です。緯糸の色糸が地の組織の上に飛び出て紋様を現しています。この色糸が使われている部分は「浮紋」と言われる技法。緯糸が細い絡み糸で押さえられずに浮いています。浮いているだけでは安定しないので「からみ」と呼ばれる経糸で所々緯糸を留めています。この浮紋が刺繍と間違われてしまうことが多いのです。
よく見ると、緯糸は常に一定の方向に走っています。これが織物の特徴です。
下の画像は「沈み紋」といいます。絹糸が浮いていません。これだと刺繍には間違われませんね。上の画像の方がもこもこしてボリューミーですが使用されている緯糸の量は上の金襴地も下の金襴地も一緒です。
織物を織るには「織機」が必要です。布を織るには最低でも経糸をかける場所、綜絖(簡単な平織り等の場合はない場合もあります。絨毯織の機等)、緯糸を巻く杼(これも最新のレピア機などはない場合もあります)が必要。
刺繍とは
布地に針と糸を用いて装飾を施す技法です。刺繍は、糸の目が多様な方向に向いているのが特徴で、光を分散させる美しさがあります。織物と決定的に違うのは刺繍は基本「基布」に糸を指していく事です。
草乃しずかさんの刺繍は素敵で見ていると筆者も刺繍をしたくなります。刺繍の特徴は布地(主に平たくてある程度面積のあるもの)に針と糸で装飾する事です。刺繍は古今東西色々な技法があります。針と糸があれば作れるのです。昔よりより美しいものを求める人たちは強度と美を兼ねた刺繍を施してきました。
下の画像は弊社の家紋。隅切りの橘。解りますでしょうか。金糸を糸で押さえた刺繍が施されています。織物と違うのは糸の目が色々な方向を向いていることです。
下の汕頭刺繍が良く針目がわかります。針目が一方だけではなくて色々な方向を向いています。格子柄に刺されているものもあります。美しいです。色々な方向にさす事で光が分散するのが刺繍の美だと思います。
弊社の織物のように浮紋が多用される織物と刺繍が混同されるのはこのような点にあると思うのです。一番の見分け方は織物は緯糸が必ず同じ方向に出ている事。刺繍は多様な方向に出ている事だと思います。
次によく言われるのは、織物を指して「素敵な編み物ですね」という事について。編み物が織物ではないと言う事をお伝えします。
編み物とは
棒針編み
:出典 ヴォーグ基礎シリーズ 手編み 昭和55年発行 株式会社日本ヴォーグ社
編み物とは一本の糸でループ(輪)を作り、そのループから次のループを引きだして面を形成していく技法です。
編み物は指でも編めます。手軽に出来てお子さんでもさくさく編めて楽しいです。
代表的なもので、棒針編み、鉤針編み、アフガン編みの3種類があります。棒針編みは2本の針を使います。編み物の一番の特徴は1本の糸で布を作っていくと言う事です。
布を織るには最低でも経糸をかける場所、綜絖(簡単な平織り等の場合はない場合もあります。絨毯織の機等)、緯糸を巻く杼(これも最新のレピア機などはない場合もあります)が必要になりますが、編み物は糸が一本あれば編むことができます。
編み物に変化をつけるためには糸が重要。綺麗な編み物を編む為に人々は色々な糸を作ってきました。下の画像は上の2枚が私の母が編んだものと下の2枚が筆者が編んだものです。素材はウールですがだいぶと風合いが違います。編み方にも色々とあって、それはそれは面白い。
かぎ針編み
:出典 ヴォーグ基礎シリーズ 手編み 昭和55年発行 株式会社日本ヴォーグ社
鉤針編みは先が鉤になった針が一本と糸があればok。鉤針編みも面白いです。
と、言うように布には色々な種類がありますが織物は織物であって、編み物ではなく、弊社の浮紋は刺繍ではないと言う事をお伝えしたくこの記事を書かせていただきました。
ちなみに、布地の種類で思いつくものは・・・
織物、編み物、組み物、フェルト、不織布、レース(これもまた技法の多い素敵な布です)かしら。
その布たちが更に古今東西考え抜かれた技法で装飾されたり加工されているので人類に布に対する思いと言う物は素晴らしいと思います。
布地について2021年に再考し、記事にしています。こちらもご覧ください。
今日の織屋の賄いはお豆さんに、具沢山お味噌汁。弊社の愛媛出身女子が用意してくれました。