中国金澤工芸社の風景 西陣織の西陣岡本

中国上海訪問記 No.6 金澤工藝社へ 

今年の「デザイン上海」Beyond Craft Japanへの参加をきっかけに、このブログ記事を執筆している私、西陣岡本のテキスタイルデザイン・広報・営業をしている岡本絵麻は昨年9月の西安以来、再び中国の土を踏みました。

2025年デザイン上海の締めはBeyond Craft Japan責任者の周昕(大前絵理)氏にお誘いいただいた金澤工藝社への旅です。西陣織という日本の伝統工芸に携わる者として、異なる土地の工藝やその背景にある精神性を知ることは、常に深い学びとなります。

民藝の精神と出会う

デザイン上海へ通勤していたホテルから移動をし、上海と金澤の中間に位置する水郷地帯を訪れました。中国「デザイン上海」No.6 金澤工芸社への旅 西陣織の西陣岡本

最初に柳宗悦の民藝運動に触発されたニューヨーク・サザビーズ出身のオーナーによる中国民藝品コレクションのクラブハウスを訪れました。そこには中国各地で失われつつある民藝品の数々が、丁寧に保存・展示されており、その美しさと温もりに心を奪われました。 この空間は単なるコレクションではなく、思想と美意識が生きた「場」としての力を持っていました。

川をメインにした建物群の作りとなっていて、クラブハウスの両脇に別荘が立ち並ぶ、しっとりとした良い土地でした。

中国「デザイン上海」No.6 金澤工芸社への旅 西陣織の西陣岡本
青いチャイナシャツをお召のオーナーとBeyond Craft Japan責任者の周昕(大前絵理)氏

周昕(大前絵理)氏には京都にあるご自宅にも呼んでいただいたり、大変お世話になっているのですが二人で撮影した写真がないことに今、気が付いて、今度撮らせていただこうと思っています。

私はこの貝を使ったアートトレーがとても気に入りました。

フラミンゴもとてもかわいいのです。
中国「デザイン上海」No.6 金澤工芸社への旅 西陣織の西陣岡本

Beyond Craft Japanの出展者たちと「工藝の村」金澤工藝社へ

Beyond Craft Japanの出展者たちと次に訪れたのは、オーナーが2002年に設立した「金澤工藝社(Jin Ze Arts Centre)」。上海と蘇州の間、水豊かな水郷・金澤に広がる「工藝の村」です。 かつて繊維工場だった敷地の建物をリノベーションし、宗時代の古民家を移築・活用し、工房・職人学校・展示施設・宿泊棟などが一体となった空間が生まれていました。

6月8日、金澤工藝社には小糠雨が降り、ひんやりとした湿度が漂い、水墨画が生まれるのも納得の光景です。

途中、本格的に雨が降り出し、金澤工藝社に移築された古民家の中庭がとても美しかった。

 

金澤工藝社では「伝統と現代」「技芸と美学」「中国と世界」という三つの理念を掲げ、刺繍や綴れ織り、絞り染、香文化、壁画、砂絵といった様々な中国の工芸技術の継承と再生に取り組まれています。西陣織を愛する私もその姿勢には、深い敬意を抱かずにいられません。

中国金澤工芸社 西陣織の西陣岡本

金澤工藝社のオーナー、デザイン上海CEO譚卓(Zhou Tan)氏、周昕(大前絵理)氏を囲み、Beyond Craft Japanの出展者たちと記念撮影。

金澤工藝社での綴れ織りの風景

金澤工藝社では綴れ織りの技術のさらなる習得を目指し、何人もの職人たちが織物を織っていました。

こちらの鳥の綴れもとても細かい。綴れの素晴らしいところは緯糸を何色もより合わせて微妙な色合いを作れるところだと思います。

こちらはたぶん、日本向けの帯として織っていた綴れじゃないかと思います。

これまでに800名以上の若き職人たちがここで技を学び、地域や世界へと羽ばたいているといいます。未来の工藝を育む場として、ここはまさに「現代の工房」と呼べる場所でした。

金澤工藝社のコレクション 刺繍

こちらの特筆すべきコレクションである、中国刺繍が素晴らしかった。

このビロウドのような滑らかな刺繍、素晴らしいです。

こちらの素晴らしい刺繍。どのような細さの針で刺したのか、モノトーンの染めの色数はどれくらいになるのかなど、京都の呉服に携わる、江村氏、松岡氏と非常に興味深く拝見しました。

この巻物の水墨画を写した刺繡は一枚の絵巻物となっていて本当に素晴らしい。キュレーターの方も「このような素晴らしい刺繍はもう二度とできないであろうと言われています」と何度も仰っていました。

なぜ、もう二度とこのような刺繍が刺せないのか。この刺繍の巻物にはホラーな話があるのです。

Q:この刺繍は素晴らしいですね、どなたかの注文で作ったものですか?

A:これは5人の刺繍職人が2年がかりで刺したものです。これは売れると思って作りました。しかし、作った後に売れずに、最終的に何年も経ってからこちらのオーナーが購入しました。

この一言を聞いて私たち伝統工芸モノづくりチームは鳥肌が立つくらい「怖い~」と叫んでしまいました。発注がないのに5人で2年もかけて作ったものが売れない、それは技術も消えていくのも当たり前だなと・・・。

売れなければ作れなくなる。これは私たちモノづくりの今進んでいく道に立ちはだかっている大きな壁です。

金澤工藝社での組紐の制作風景

組紐も盛んに作られていました。

日本の組紐台とちょっと違いますね。装飾的でかわいいです。

水郷・金澤の風景と想い

川と共に生きる金澤の街並みは実に美しく、まるで時がゆるやかに流れているようでした。 現在この地域には10万人規模の研究施設が建設予定とのことですが、地域の歴史的景観を守ろうとする運動も活発に行われているそうです。その姿にもまた、西陣の町家を守ろうとする京都の風景とどこか重なるものを感じました。

Beyond Craft Japanの交流の夜

夜にはBeyond Craft Japanの関係者たちとのパーティに参加。中国のキュレーター、アーティスト、工芸関係者、日本のモノづくりの面々たちと交流を深めることができました。

中国金澤工芸社 西陣織の西陣岡本
金澤工藝社での夜

中国の伝統遊戯「投壷(とうこ)」にも挑戦してみました。」これは壷の三つの穴に矢を投げ入れて点数を競う遊びで、なかなかに難しく、ついつい夢中になってしまいます。

中国の伝統遊戯「投壷(とうこ)」西陣織の西陣岡本

その後、夜の金澤の街をしっとりと散策。川沿いに広がる灯りと石畳、遠くに響く鳥の声…まるで静かな詩の中を歩いているような気持ちになりました。

旅の締めくくりに

最終日は近所のスーパーマーケット(超市)へ。地元野菜の瑞々しさに感動しながら、再び上海浦東国際空港へ向かいました。 今回の帰路では、同じくBeyond Craft Japanに参加していた「金箔押し山村」のご夫妻と行動を共にし、今回の展示や手仕事にまつわる話題で尽きることなく語り合う、豊かな時間を過ごしました。

手仕事と人がつなぐもの

西陣織という伝統工芸に身を置く身として、「金澤工藝社」のような場の存在はまさに共鳴を覚えるものでした。 中国でも、日本でも、世界のどこでも、手から生まれるものには魂があります。技術だけではない、その背後にある想いこそが文化を受け継ぎ、未来へと火を灯していくのだと、今回の旅は改めて気づかせてくれました。

金澤工藝社のツアーの中で、中国の太鼓を見学者が体験したり、中国の歴史的な文学(西遊記や三国志など)の場面を再現した中国工芸船?の見学が楽しかったです。

  • 金澤工藝社 太鼓体験
  • 金澤工藝社 工芸船

ありがとう、上海。またきっと会いましょう。

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