2026年1月15日付の読売新聞朝刊に、当社社長であり、西陣織の手織りに携わる伝統工芸士・岡本圭司の仕事が紹介されました。
また、同内容の動画も読売オンラインに公開されています。
本記事では、新聞の内容をなぞることはいたしません。
あくまで、西陣織の現場にいる当事者の視点から、現在の手織りという仕事について記録しておきたいと考え、筆を取りました。
西陣織はしばしば「伝統」「文化」「美しい織物」といった言葉で語られます。
しかし、私たちにとってそれはまず仕事であり、生業であり、日常です。
そしてその日常の積み重ねの先にしか、継承も未来も存在しません。
ここでは、一見華やかに見える上辺ではなく、実際の西陣織の現場がどのような構造で成り立ち、なぜ今も手織りを続けているのかについて、できるだけ正確にお伝えしたいと思います。
西陣織の手織りが伝統工芸ではなく「仕事」であり続けるということ
西陣織はしばしば「文化」や「伝統」として語られます。
もちろんそれは事実です。しかし、私たちにとって西陣織はまず生業です。
現社長の曽祖父が西陣という町で西陣織を織り始め、それが祖父から父へと受け継がれ、現在は四代目として家業を継いできました。
そこにはっきり言って美談はありません。あるのは続けるという責任と、やめないという現実です。
仕事として西陣織に向き合うということは、綺麗な部分だけを見ることではありません。
原価、納期、働く人たちの問題、分業先の状況、すべてが混ざり合って、成り立っています。
西陣織を「残す」ために仕事をしているのではなく、仕事として成立させるために、西陣織を続けている。
それが私たちの一番の本音です。
その順番を取り違えると、美談だけが独り歩きし、現場の実情から乖離してしまいます。
分業制の中で成り立つ西陣織という構造
西陣織は、一社で完結する織物ではありません。
図案、糸づくり、染色、整経、引箔、紋紙、そして織。
いくつもの専門職人の工程を経て、はじめて一反の布になります。
私たちは、その最終工程である「織」を担っています。
つまり、すべての工程の結果を引き受けて最終的な製品にする立場です。
糸の状態、箔の質、紋の精度、どれか一つでも欠ければ、布地として成立しません。
分業制は効率のための仕組みではなく、技術を極限まで高めるための構造です。
西陣織の価値は、個々の職人の技術の集合体であり、誰か一人が欠けても成り立たない、極めて繊細なバランスの上にあります。
なぜ私たちは今も手織りを選ぶのか
理由は明確です。
手織りの織屋に生まれ育ったから。それが一番大きい。
子どもの頃から、家の中に織機があり、糸の音があり、布が生まれる瞬間を見てきました。
その布地の事を、純粋に魅力的だと思っています。
シャットル織り機のシャットルが入るときに出来る「糸の山」による布地のふっくらした風合い、経糸のテンションのかかり方。
それらは新しい高速織機では再現できません。
そこには効率では測れないものがあります。
手織り特有のわずかなゆらぎ、張り、密度感。
私たちはそれに取りつかれている、と言ってもいいかもしれません。
私たちは新しい高速織機を導入する予定はありません。
私たちは、シャットルを使った、手織機と力織機で西陣織を織る織屋として仕事をしていきます。
それが自分たちの選んだ立ち位置です。
メディアに取り上げられるということについて
今回、読売新聞に掲載され、動画も公開されました。
これは、販路開拓を進める中で、複数のメディアに取り上げていただいてきた流れの一つでもあります。
これらについて、率直に言えば、喜びよりも責任が増えたという感覚のほうが大きいです。
販路開拓を始める以前は、職人として黙々と仕事をしていればよかった。
いわば西陣の中だけで「引きこもって」仕事ができていました。
私たち西陣の職人の多くは、普段の行動範囲がとても狭いです。
しかし、メディアに取り上げられることで、仕事は「見られるもの」になります。
それは正直に言えば、少し不自由です。
同時に、西陣織を知ってもらえる機会が増えるということでもあります。
西陣織について知っていただきたいという気持ちは非常に大きく、それに対してはどんな努力も厭いません。
今、国内外からの来客が一気に増えています。
西陣織を知っていただくために私たちは展示会にも出展し、西陣織を携えて、フィンランド、サウジアラビア、フランス、中国へ参りました。
西陣織が、限られた世界の中だけで語られる存在で終わってしまうのは、本意ではありません。
見られることの不自由さを引き受けたうえで、それでも西陣織を後世へ伝えるべきだと思っています。
西陣織の未来を語る前に、現在を正確に残したい
西陣織の未来について語る言葉は、いくらでもあります。
しかし、その前にやるべきことは、現在を正確に記録することです。
今、西陣では、こういう現実があります。
西陣全体で仕事を発注していた分業先の職人たちは高齢化してきました。
とても未来のために、私たち一社だけでは支えきれない状況になっています。
私たち一社が頑張れば解決する話ではありません。
西陣の構造そのものの問題です。
当社社長は西陣の中で助け合う「お助け隊」というグループにも参加しています。
これは、「金襴」を織っている人は「織る」という事に詳しくて、ある程度のメンテナンスをできるからです。
これをメンテナンスの互助会として役立てていこうというのが「お助け隊」の意義です。
当社社長一人では大きなことはできませんが、少しでも西陣のためになればという思いで関わっています。
そしてそれが『三本の矢』のような強みとして、西陣全体の支えになることを願っています。
未来を語るなら、まず現在を正確に見なければならない。
それが、西陣の現場にいる私たちの責任だと考えています。
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