西陣織の価格は
どう決まるのか

素材・工程・設計から見る「高級=伝統」ではない理由

西陣織は「敷居が高い」「高級」「伝統工芸」という言葉で語られることが多い織物です。しかし、その価格がどのように決まっているのかについて、具体的に説明されることはほとんどありません。

価格は、伝統であるかどうかで決まるのではありません。素材・工程・設計という、きわめて現実的で積み重ねのある要素によって決まっています。

本ページでは、西陣織金襴の製織を実際に行う織元の立場から、西陣織の価格がどのような構造で成り立っているのかを整理して解説します。

西陣織の概要(産地の成り立ち・特徴)については、こちらの「西陣織とは」で詳しく解説しています。

「高級だから高い」のではない

西陣織が高価に見える理由として、「伝統工芸だから」「高級品だから」という説明がなされることがあります。しかし、これは本質的な理由ではありません。

実際には、西陣織の価格は使われる素材の質、関わる工程の数、設計の難易度によって決まります。これは現代の工業製品と同じく、きわめて合理的な構造です。

価格を構成する三つの要素

① 素材の価格

西陣織では、様々な種類の糸、金糸・銀糸、引箔など、用途に応じた多様な素材が使われます。

とくに当社の金襴では、本金引箔・本金糸といった素材が価格に大きく影響します。金は国際相場で取引される素材であり、近年は価格が大きく変動しています。また、為替の影響により絹糸の価格も上昇しています。

こちらのページに金価格の高騰に対してどのように挑んでいるか、どのような悩みがあるのかを書いています。

素材価格は織元の努力だけでコントロールできるものではなく、制作時期によって同じ意匠でも価格が変わることがあります。

② 工程の数と分業構造

西陣織は分業制によって成り立っています。一反の布が完成するまでには、図案、糸づくり、染色、整経、紋紙、引箔、製織といった複数の工程が関わります。

西陣にかかわる職人たち

工程が増えるということは、その分関わる専門職人の数が増えるということでもあります。それぞれの工程には専門性があり、適正な工賃が必要です。

西陣織の価格は、一人の技術料ではなく、分業による産地構造全体を維持するためのコストを反映しています。

西陣織の工程について、こちらのページで解説をしています。

③ 設計の難易度

西陣織では、織り始める前の設計段階で価格の大枠が決まります。

素材の選定、金糸や引箔の使用箇所、紋意匠の複雑さ。これらはすべて事前に決める必要があります。そのため、設計が複雑になるほど、試織や調整にかかる時間も増え、その分のコストが発生します。

なぜ「安くできない」のか

工程を簡略化し、素材を安価なものに置き換えれば、織物の価格を下げることは可能です。しかし、それは同時に、西陣織としての前提条件を見直すことにもつながります。

西陣織は、西陣織工業組合に所属する織屋が、京都で製織した織物であることを基本条件としています。当社はこの条件を重視し、現在も京都での製造を続けています。

そのため、京都の職人と連携し、分業制の工程を維持する必要があります。結果として、職人への適正な支払いが発生し、製品価格にも反映されます。

価格を下げるために工程を削ることは、産地の構造そのものを弱めることにもつながります。西陣織が今日まで続いてきたのは、価格と品質のバランスを取りながら工程を維持してきたからだと考えています。

現代における価格の意味

現代において、西陣織の価格は単なる「高級品の値段」ではありません。

それは、素材を選び、工程を維持し、設計を成立させるための現実的な必要条件でもあります。

私たちは、「高いから価値がある」のではなく、西陣の職人たちの技術という価値を成立させた結果としての価格があると考えています。

FAQ

Q. 西陣織はすべて高価な織物なのですか?

A:一般的な量産布地と比べると、高価格帯になる傾向があります。
布地売場では、メートル単価数百円の布も多く見られますが、西陣織のようにジャカードを多用し、設計や工程に手間をかけた織物は、どうしてもコストが上がります。

西陣織の中でも、化学繊維を用いた比較的シンプルなものは、メートル単価数千円台の製品もあります。一方で、当社が手がける金襴のように、絹を使い本金引箔や複雑な紋意匠を用いる場合は、素材や設計の影響で価格帯が大きく変わります。
用途や目的に応じて、幅広い価格帯が存在するのが実情です。

Q. 西陣織を安く作ることはできないのですか?

A:工程や素材を簡略化すれば、価格を抑えることは可能です。
ただし、その場合は西陣織として前提としている品質や設計条件を見直す必要があります。

どの程度の品質や表現を求めるのか、そしてその価格に対してどのような満足を得たいのか。
そのバランスをどこに置くかが、重要なポイントだと考えています。

Q. なぜ京都で織ることが重要なのですか?

A:西陣織は、産地としての分業構造と職人技術の蓄積によって成立しています。京都で製織することは、京都の中の職人たちの力を借りるという、その構造を維持することにつながります。

まとめ

西陣織の価格は、伝統という言葉だけで説明できるものではありません。素材、工程、設計という現実的な要素が積み重なった結果です。

価格の構造を知ることは、西陣織そのものを理解することにつながります。

西陣織の分業構造や製織工程については、西陣織の分業構造と製織工程で詳しく解説しています。