大阪・関西万博「未来航路」会場で京都市の松井市長と西陣織タペストリー「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」 

西陣織の大阪万博出展について、メディアに掲載されて考えたこと

西陣織を織る岡本織物(西陣岡本)の取り組みが、TKC出版 2025年11月号「戦略経営者」に掲載されました。
掲載ページは、大阪・関西万博で開催された体験型展示イベント大阪・関西万博「未来航路」での西陣織展示レポート(1〜2ページ)です。

この記事では、誌面に載った内容を土台にしながら、私たちが西陣織を次の世代へ手渡すために、何を選び、何を変えようとしているのかを、現場の言葉で記録します。万博という場所で、西陣織がどのように受け取られたのかも含めて書き残します。

「戦略経営者」掲載:万博「未来航路」とは

「戦略経営者」の特集で紹介されている「未来航路」は、中小企業庁と独立行政法人 中小企業基盤整備機構が主催した体験型展示イベントです。
社会課題の解決に挑み、未来へ進もうとする中小企業を「未知の大海へ航海に繰り出す挑戦者」に見立て、製品やサービス、技術を展示する企画として紹介されています。

会場は大阪・関西万博 EXPOメッセ「WASSE」South
期間は10月3日から7日までの5日間
会場には全国から中小企業の展示が並び、参加企業83社の中から、紙面には当社を含む5社が取材対象として取り上げられました。

TKC出版「戦略経営者」2025年11月号 掲載誌
TKC出版「戦略経営者」2025年11月号

*この記事のアイキャッチ画像について。
万博会場では、京都市の松井市長にも作品をご覧いただき、タペストリー「ひゅらん。」の前で記念撮影をさせていただきました。

西陣織が「伝統の継承と革新」として紹介されました

「未来航路」では、出展企業の強みがいくつかのテーマで整理されていました。
当社・岡本織物(西陣岡本)は、その中の「伝統の継承と革新」として紹介されています。

私たちは西陣で金襴を織っています。これまで主に神社仏閣へ納める織物を手がけてきました。
誌面で紹介されたのは、その仕事で積み上げてきた西陣織の技術を使い、若いマンガクリエイターとの協業で大型タペストリー制作に挑戦した取り組みです。

金襴については、以下のページから詳しくご覧いただけます。

作品:西陣織金襴絵箔順引き模様引箔「ひゅらん。」

取材で記者さんが会場に入ったとき、「すごいですね!入ってすぐに目に入りました。」と最初に声をかけられたのが、キャラクターの絵をあしらった巨大なタペストリーでした。
作品名は西陣織金襴絵箔順引き模様引箔「ひゅらん。」です。

絵を担当してくださったのは、京都を拠点に活動する10代のマンガ創作ユニット「ぐらにゅーとー」のお二人。
誌面でも、若いクリエイターの瑞々しい感性と、西陣織の技術が一つの作品に凝縮されている、と紹介されています。

「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」搬入日にて(顔出しはNGのためぼかしています)
「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」
搬入日にて。顔出しはNGのためぼかしています。

私たちが、このタペストリーに込めたこと

私は制作の経緯について、誌面で次の趣旨をお話ししました。

西陣織の魅力や職人が持つ高い技術を後世に伝えていくためには、西陣織そのものの新たな可能性を追求することが不可欠だと思っています。

「新たな可能性」と書くと、少し整いすぎて見えるかもしれません。
でも現場でやっていることは、もっと手触りのある作業です。
西陣織でどのような表現を織ることができるのか。どの素材を選ぶのか。工程の順序をどう組むのか。どこに時間をかけ、どこを削るのか。
そうした判断を、作品ごとに組み直しています。

今回の「ひゅらん。」は、マンガの線や余白、時間の気配を、織の組織と引箔の表情へ落とし込む挑戦でした。
布地が、物語を映す画面のように見える瞬間がある。その瞬間を狙って、工程を積み重ねました。

製造工程を動画で公開し、職人へ取材した理由

誌面では、タペストリー制作に合わせて、製造工程を当社YouTubeチャンネルで公開したこと、そして各工程を担う職人への取材を行ったことも紹介されています。

「ひゅらん。」の動画は短縮版もあります。短縮版はこちら

西陣は分業で成り立つ織物産地です。
図案、糸、染、整経、引箔、紋紙、織。
布地が完成するまでに複数の専門の職人の手を通ってきます。

しかし、完成品だけを見ていると、裏側の仕事は見えません。
私たちは織元でもありますが、自分たち自身も職人の企業です。
自分たちの仕事はもちろん、一緒に西陣織にかかわっている職人たちの仕事も紹介したい。

ちなみに、下記の画像は「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」タペストリーの裏側から見たところです。
裏側も展示に含めると、西陣織の構造が伝わるのではないかと思い、事務局の方と相談して公開することにしました。
可視化することって大事ですね。

「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」タペストリーの裏側

以前は、当社の中でも取引先である職人を紹介すること自体に慎重な空気がありました。
それでも私たちは、各工程の仕事が作品の表情をつくっていることを、きちんと見える形にしたいと思いました。
作品の中心にいるのは、いつも現場の手です。

そこで、万博の展示では、事務局にお願いし、「ひゅらん。」に関わってくれた職人たちを紹介できるブース構成にしていただきました。
あわせて、職人の仕事を紹介する動画も会場で流してもらいました。

「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」にかかわってくれた職人たち

動画で工程を見せることは、私たちにとって「宣伝」だけではありません。
各工程の仕事が、最終的な布地の見え方へどうつながっているのかを、言葉と映像で残すこと。
そして、職人同士が互いの仕事を見直すきっかけになること。
実際に関わってくれている職人さんたちからは、「工程の多さをあらためて実感した」「自分の仕事の立ち位置がよくわかった」といった声があり、誌面でも「自分の仕事が作品にどんな影響を与えているのか理解できた」という反応が紹介されました。

西陣織は、一社の力で完結しません。
だからこそ、作品が世に出るときに、関わった人の仕事が置き去りにならない形を取りたい。
そのための一手として、私たちは「公開」という方法を選びました。

今回、会場で紹介できたのは下記の工程です。

製織するまでの工程

西陣織の糸準備(糸屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織の糸準備(糸屋)
西陣織の糸染(染屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織の糸染(染屋)
西陣織の経糸の整経(整経屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織の経糸の整経(整経屋)
西陣織のデザイン|ひゅらん。制作工程
西陣織のデザイン
西陣織の引箔制作(箔屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織の引箔制作(箔屋)
西陣織の引箔裁断(裁断屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織の引箔裁断(裁断屋)
西陣織の紋意匠|ひゅらん。制作工程
西陣織の紋意匠(当社)
西陣織の製織(織屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織の製織(当社)

仕上げの工程

西陣織の整理加工(張屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織の整理加工(張屋)
西陣織のタペストリー仕立て(仕立て屋)|ひゅらん。制作工程
西陣織のタペストリー仕立て(仕立て屋)

西陣織関連の職人さんたちにインタビューをしています。どうぞご一読ください。

制作背景や展示当日の様子については、大阪・関西万博「未来航路」での西陣織展示の詳細レポートにもまとめています。

大阪・関西万博で、西陣織はどう見られたのか

「戦略経営者」の2ページ目には、会場の空気が写真とキャプションでまとめられています。
全国から集まった中小企業の展示が並び、その中で岡本織物(西陣岡本)の西陣織タペストリーが紹介されました。

展示会では、さまざまな技術が同じ空間に並びます。
来場者が見ているのは「ジャンル名」ではなく、目の前で起きている現象です。
西陣織の場合、それは糸と箔がつくる光であり、近づいたときにしか分からない織組織の密度です。

「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」長髪のあやめのアップ
「MANGA×西陣織金襴絵箔 順引き模様引箔『ひゅらん。』」長髪のあやめ

掲載はゴールではなく、次の制作のスタート

「戦略経営者」という媒体に掲載されたことは、私たちにとって大きな節目です。
ただ、掲載そのものを飾りたいわけではありません。
万博という未来志向の場で西陣織が紹介されたことは、私たちの仕事が「いま動いている技術」として見られた、ということでもあります。

西陣織は、いまも現役の技術です
そして、現役であり続けるためには、作り手が現場で手を動かしながら、作品ごとに判断を重ねていく必要がある。
私たちは、そのことを制作し続づけることで示していきます。

万博「未来航路」での展示、そして掲載していただいたことをきっかけに、西陣織が次にどこまで行けるのか。
次の作品で、また具体的にお見せします。


掲載情報
「戦略経営者」2025年11月号(未来航路レポート)1〜2ページにて紹介

以下は、大阪・関西万博2025「未来航路」の開会式、リボンカットのシーンです。
万博のマスコット「みゃくみゃく」も会場を盛り上げてくれました。


大阪万博の個人的な思い出

私は大阪・関西万博に、5月、7月、8月、そして「未来航路」の関係で合計8回足を運びました。

5月はまだ少し涼しく、大屋根リングの下を風が通り抜け、とても心地よかった。
7月と8月は酷暑。大屋根リングの下が唯一の憩いの場で、どこもかしこも長蛇の列でした。
10月の「未来航路」もかなりの暑さでしたが、8月よりはましだったでしょうか。
10月3日の開会式には夏物の着物で参加したので少々大変でした。
とにかく、暑く、そして熱い一夏のイベントでした。

一番感動したのは、大屋根リングのスケールです。
東口から入り、西口近くの大阪・関西万博 EXPOメッセ「WASSE」Southまで何往復もすると、まさに「歩いた感」たっぷり。
搬入の日はあちこち動き回り、36,000歩ほど歩いていました。

開催前にはさまざまな意見もありましたが、実際に足を運んでみると、大屋根リングをはじめとする建築群や、各国パビリオンの完成度の高さに圧倒されました。
万博を訪れることができ、さらにその一部として関わる機会をいただけたことを、私は幸せに思っています。

大屋根リングの大きさ 地図上で当社の上に置いてみました。 どこでも大屋根リングより
どこでも大屋根リング

大屋根リングの大きさを知るためだけのサイトがあります。
どこでも大屋根リング
大屋根リングの大きさを実感していただきたく、地図上で京都・上京区にある当社の位置に重ねてみました。
ぜひ、あなたが住んでいる土地の上にも重ねてみてください。
結構びっくりする大きさだな、と実感できると思います。

それだけの規模の空間の世界的なイベント「国際博覧会」で、西陣織を展示できたことは、私にとって忘れがたい経験です。

あの広大な空間の一角に、西陣織の一枚が飾られた。
その光景を、私は忘れないと思います。


  この記事を書いた人

西陣岡本の専務取締役でありテキスタイルデザイナーの岡本絵麻の写真

岡本 絵麻

京都・西陣の織元 岡本織物で西陣織金襴のテキスタイルデザインと発信を担当。
自分でも手芸を好み、繊維・ものづくりを愛する。
工程・素材・ことばの往復から、西陣織の現場の輪郭を書き残しています。


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