西陣織の音に育まれて|岡本織物 京丹後協力工場・布平

京都・西陣で金襴を織る岡本織物(西陣岡本)は、大阪・関西万博の体験型展示イベント「未来航路」で、西陣織の希少技術「引箔」を用いた大型タペストリーを展示しました。
この記事は、万博という場で西陣織がどう受け取られたのか、そして私たちが何を選び、何を見せる展示にしたのか を、現場の言葉で記録するためのページです。
中小機構の未来航路サイトでは当社の紹介もしていただいています。
会場内の大型モニターでは、当社の万博に向けたメッセージも紹介していただきました。
大阪・関西万博2025と西陣岡本の関連記事をまとめたページはこちらです。
取材でTKC出版の記者さんが会場で「すごいですね!入ってすぐに目に入りました。」と私に声をかけてくださったのが、キャラクターの絵をあしらった巨大なタペストリーでした。
この作品は、若手マンガクリエイターユニット「ぐらにゅーとー」との協業で生まれた、西陣織金襴絵箔順引き模様引箔「ひゅらん。」です。

サイズは約250cm×140cm。遠目でも、近づいても、見える情報が変わる作品です。離れると画面として立ち上がり、近づくと糸と箔の重なり、織組織の密度が見えてきます。

今回の西陣織のテーマは「引箔(ひきばく)」でした。
「引箔」は、和紙に箔を貼ったり彩色し、細く裁断したものを絹糸とともに織り込む技法です。
その加飾した和紙は一枚の面ではなく、細い線として布の中に入り、角度や距離で表情が変わります。

今回の「ひゅらん。」では、マンガの線、コマの切れ目、余白、時間の気配を、織の構造と引箔の表情へ落とし込む設計をしました。
布地が、物語を映す画面のように見える瞬間を狙い、工程を積み重ねました。
引箔についての解説はこちら。
西陣は分業で成り立つ織物産地です。
図案、糸、染、整経、引箔、紋紙、織。布地が完成するまでに複数の専門が重なります。
だからこそ、完成品だけを見せる展示にはしませんでした。
作品の中心にいるのは、いつも現場の職人たちです。
関わった職人の仕事が置き去りにならない形を取りたい。
そう思い、事務局と相談して構成を組みました。

制作工程を動画で公開するのは、「宣伝」だけが目的ではありません。
各工程の仕事が最終的な布地へどうつながるのかを、映像と言葉で残すためです。
映像として可視化することで、関わってくれる職人の仕事の価値を、改めて共有したいと考えました。
動画はこちらからご覧いただけます。
「ひゅらん。」の動画は短縮版もあります。短縮版はこちら。
展示当日の様子や、万博の空気感については こちらに整理しています。
本展示は、経済産業省所管の独立行政法人である中小企業基盤整備機構(中小機構)による体験型イベント「未来航路」の一環として開催されました。
開会式や会期中には、主催者関係者や来賓の方々をはじめ、多くの来場者が会場を訪れました。
会場では、作品の前で足を止めた方から 「え?これ織物なのですか?」という声を何度もいただきました。
遠目には一枚の画面のように見え、近づくと糸と箔の重なりが立ち上がる。
その視覚的な揺れが、まず驚きとして受け取られていたように思います。
私はその都度、「引箔」という技法について説明しました。
和紙に箔や彩色を施し、それを細く裁断して絹糸とともに織り込むこと。
布地の中に線として入り込むことで、角度や距離によって表情が変わること。
動画とあわせてご覧いただくことで、多くの方が構造を理解し、納得してくださいました。
一見して織物に見えないことは、この作品の強みでもあります。
同時に、西陣織としての技術や構造が自然に伝わる展示設計は、今後さらに磨いていくべき課題でもあります。
万博という大きな舞台で得た反応は、次の制作へ向けた具体的な指標となりました。
京都市の松井市長とも、作品「ひゅらん。」の前で写真を撮影させていただきました。
西陣で積み上げてきた技術を、公的な立場の方に直接ご覧いただけたことは、私たちにとって一つの節目でした。

私は大阪・関西万博には5月、7月、8月、そして未来航路の関係で合計8回行きました。
暑い時期でも、大屋根リングの下には風が通り、とても気持ちよかった。
大屋根リングは本当に大きく、あれを見て、体感できたのは本当によかったです。
万博に実際に足を運ぶと、各国パビリオンの建築群も見応えがありました。
特に、「考えるな 感じろ」を体現していたフランスパビリオンには感動しました。
会場内には、本当の海があり、人工的な森もある。
古い校舎をリノベーションした河瀬直美氏によるパビリオン「Dialogue Theater ―いのちのあかし―」、最新の技術を使った、外壁が鼓動する落合陽一氏の「null²(ヌルヌル)」など抽選に通らずとも、外から見ても楽しいパビリオンたち。
どうしても観たかった大阪ヘルスケアパビリオンの 卵殻膜繊維「ovoveil(オボヴェール)」も見ることができました。
卵殻膜から生まれた繊維は、シルクに似た艶を持ちながら、 柔らかく、そしてわずかに冷感もある不思議な質感でした。ovoveilの展示ブースは友人の友禅作家、川邊祐之亮氏がプロデュースをしています。
霧(ミスト)スポットのある「シグネチャーゾーン」の「いのちパーク」はぐらにゅーとーの二人に教えてもらい、体験することが出来ました。

万博という場に関わり、西陣織を提示できたことは、私たちにとって確かな経験となりました。
大阪・関西万博という大きな舞台で、 西陣織がどのように受け止められたのか。 本記事は、その記録として残します。