私たち西陣岡本では創業期より「本金引箔」という技術を使って豪華絢爛な西陣織金襴を織ってきました。今回から3回に分けて引箔の「いろは」について書いていこうと思います。
今回は「い」です。
西陣に伝わる伝統技法 引箔|技術
西陣織の特徴
西陣織は、日本が世界に誇る伝統工芸の一つです。その最大の特徴は「先染め織物」であり、糸を先に染めて色分けして織ることで製織した際の色と質感の深みを出します。
西陣で引き継がれる特殊な技術-引箔
渡来の技術から今では西陣・もしくは丹後の一部でしか織られていない技術として「引箔」という特殊な製織技法があります。これは、平たくて短い薄い紙から作られた箔糸を使用した、布地に独特の光沢と質感を与える独特の織物です。
本金引箔
引箔の漆は何層にも重ねて塗り重ねます。漆が溜らないように、紙の上に薄く均一に思い通りの厚さに漆を塗る作業は熟練が必要です。
塗を塗り重ね、磨き上げて金箔を貼るとぴかぴかの「光箔」に、漆を薄くして、紙の質感が出るようにしてから金箔を貼ると「さび箔」と言われる、鈍い光を放つ上品な箔糸が出来ます。
箔糸の製作 は、伝統的な手仕事から始まり、現代ではポリエステルフィルムと真空蒸着機による大量生産へと進化しました。手機でも機械織でも使用される引箔の技法は、繊細な作業が求められます。
漆の特性として、ウルシオールが酸化し固まることで、耐水性・耐熱性・防腐性に優れた塗膜を形成します。漆器や建造物に多くの漆を塗り重ねることで、その堅牢さは増します。
右は弊社で使っている本金引箔糸の写真と、「西陣織で使われる「引箔糸・本金糸」が出来上がるまで ©@京都金銀糸工業協同組合の動画です。
本金引箔 |
西陣織で使われる「引箔糸・本金糸」が出来上がるまで ©@ 京都金銀糸工業協同組合 |
模様引箔
模様引箔制作
現在では、引箔にも様々な彩色技法が用いられ、模様を描いた箔糸が生まれました。模様入りの箔 は、和紙にラッカーによる着色、金銀砂子の使用、銀箔の加熱や色箔などによって模様表現をしていきます。一枚一枚手作りされるため、同じものは二度と作れません。続き物で箔糸を作る場合は、紙と紙のつなぎ目に差が出ないように工夫して模様を付けます。
模様引箔は、絣のように順序良く織る必要があり、糸を織り入れる順番を間違えると意図した模様になりません。
裁断とサイズ
裁断は、紙を糸に変える重要な工程です。
紙の四方を切り落とさずに残っている状態で切ります。西陣には紙を切る「裁断所」があります。弊社は1寸90切り(曲尺一寸約3.03㎝の為、一本約0.3mm)で切る事が多いですが、用途によって切幅を変えます。
引箔は、特注の糸で、織屋毎に注文の大きさで作ります。弊社の場合、手機用と力織機用でもサイズが違います。
弊社では引箔一枚で約60㎝強織れる計算で織ります。以下の写真は、裁断前の力織機西陣織金襴幅用の引箔紙です。
製織
製織する際、織り手は箔の下準備に最大の注意を払い、箔が正確に織り込まれるようにします。手機と力織機のみで引箔を織ることができます。
織る前に、通常両観音折りにされている箔を広げます。織る2、3日前には引箔の四隅の紙を切り落とし、箔に重しを乗せて紙のゆがみを直します。箔がゆがんでいると、織った時に箔が裏返ってしまったり、自動引箔装置にいくつもあるンサーに反応したりして織れなくなります。力織機で織る場合でも、粉塵などによりセンサーの反応が悪くなります。
箔糸を引き入れて織るだけではなく、ジャカードにより、箔糸自体を紋織りにし、絹糸で紋織りを重ね、重厚感を出すのが弊社の引箔です。
引箔は西陣織の魅力を表現する織技法の一つです。