「西陣織金襴は人生のエンターテイメント」

岡本絵麻(専務取締役)
圭司の妻。札幌出身。大学卒業後の1998年岡本家に嫁ぎ、西陣織の世界へ。紋意匠(デザイン・紋作り)、製品開発、SNS、広報など担当。

実母が繊維関係の仕事をしていて、私も学生時代に織を専攻するなど、ずっと布に親しみながらも、西陣織にふれたのは結婚がきっかけでした。仕事で扱うようになって、絹織物の美しさ、意匠の豊富さを知り、金襴の魅力がわかってきました。仏閣を極楽のように表現するために進化してきた金襴はエンターテイメントのための絹織物です。ただ、岡本の仕事は手織りに関しては納める先がほぼ決まっており、「伏せ機(ふせばた)」といって外部に柄を公開することはタブーです。せっかく素晴らしいデザイン、技術と素材で織っているのに、一般の人が本当に品質の良い西陣織金襴の絹織物を布屋さんで買うことはできないことを、はがゆく思うようになりました。そこで始めたのが、新しい意匠で「金襴の絹織物」を織り、広くSNSなどでアピールしていくことです。最初に織ったのは、アフリカに旅行に行きたいという気持ちを託し「アフリカ」と名付けた柄です。社内でのウケはいまひとつでしたが、諦めることなく少しずつデザインを増やしてきました。

金襴は、文字通り金を表現するための織物で、引き立てるための細かな技法がほどこされています。当社で織れるのは手で織れる幅を基本とした幅70cmという縛りもあります。高速機械ならもっと早く幅の広いものが織れますが、昔ながらの力織機を使わないと独特のむっくりとした質感が出せません。これはものづくり側のこだわりに過ぎないかもしれませんが、「質感」は譲れない、大切にしていきたい部分です。意匠については、これまでの金襴にないデザインに本来の品格と豪華さを失わせず、心が浮き立つ楽しい色を使うように心がけています。これからも日常の中から、自分の琴線にふれたものを意匠化して紡いでいきたいと考えています。

とはいえ、一反を織るにも高速織機とは違い時間や手間がかかり、素材も高いため、どうしても高価になります。そこを理解した上で欲しいと思ってくださる方々をどのように見つけたらいいのか、悩みに悩み続けています。アパレルの仕組みも商品企画も市場のこともよくわからず、何もかも手探りで情報収集し教えを乞いながら走ってきました。そうした中でご縁をいただき、ネクタイやバッグ、アクセサリーなどの商品化も経験しました。しかし、織屋である当社にとって布を反物で売っていくことが必要です。今後はインテリアや建築空間へ金襴を提案し、金襴の可能性を広げていきます。

これからの伝統工芸は職人自らがプロデュースして販売力を付けていく必要があります。これまでものづくりに徹してきた職人自身の技術をオープンにし、新しい発想を形にする。京都に数ある伝統工芸同士がチームを組み、お互いの技術共有など業界全体で協力しあうことで、新しい製品・販路が生まれるはずです。そして、お客さまに喜んでいただき、川上の人々にまでしっかりと利益が分配できる三方よしの体制を築いていくことが、よりよいものづくりの未来につながる道の一つだと信じ、働きかけています。

(2023年11月13日取材/文・森本朕世)

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