「糸は生きもの。気を抜かずに向き合い、丁寧な仕事を心がけています」

大下好子
忠雄の一番下の妹。嫁ぎ先も帯の織屋で、力織機で帯を織っていたことも。その後、岡本で検反などの仕事を担当。

生まれ育った岡本家での思い出は、とにかく両親がよく働いていたこと。8時から晩御飯、食べた後に親はまた仕事に戻り、夜中まで働いていました。そんな生活だったので、織屋は大変な仕事なのでゆっくりしたい、サラリーマンと結婚したいと思っていました。でもそれは知らなかっただけで、サラリーマンだって大変な仕事でした。現在は当社で主に検反・検品・経糸を継ぐ(経継ぎ)の用意等をしていますが、織屋に生まれた者として、結局この仕事が一番性に合っているのかなと思います。近所の人たちからも、「年をとっても仕事ができるのはいいことやな」と羨ましがられています。

末っ子なので手伝いも家の仕事より家事ばかりで、あまり糸に親しんできたわけではないのですが、仕事に関してはみんなから教えてもらってなんとなく身につきました。糸はやっぱり美しいと思いますし、さわるのは好きです。順番に糸にさわっていける経継ぎの仕事はなんとなくウキウキします。やはり糸は生きものだと思います。少しでも手を抜いたら、糸が切れたりしてうまくいきません。また、何千本という糸の中に1本具合の悪い糸があっただけでも大変で、傷になってしまいます。経糸を整えることも大事。すみからすみまで細心の注意をはらい、どんなときも気を抜かずにきちんと向き合うことが大切です。織り上がった後も、織り手の思いがこもった織物をよりよい形で納品するために、いつも丁寧できれいな仕事を心がけています。きっちりと検反ができたときや、掛け継ぎがきれいにできたときは、嬉しくてやりがいを感じます。当社の金襴は、他ではなかなか見られない独自性がある美しい織物だと自慢に思っています。こうして関わってきて、岡本家に生まれて本当によかったと思います。

ものづくりに関しては、時代とともに、ずっと納めてきたお寺さんも代替わりしていきますので、その年代の感覚に合ったものを提案していくことが必要だと思います。その部分は仲買さんも含め、みんなが今一生懸命考えているところですね。お寺以外の販路についても、当社を含めいろんな織屋さんがいろんな挑戦をされていますが、簡単なことではないと思います。私自身は、現状維持を目標に長くお手伝いすることができたらと思っています。でも当社発信の小物がたくさん売れるのは目に見えてわかる部分なので楽しいですね。西陣織マスクがヒットしたときは、本当に嬉しかったです。あまりにも忙しすぎましたけどね(笑)。

(2023年11月13日取材/文・森本朕世)

関連記事