引箔の歴史と未来への挑戦
西陣岡本では、「引箔」という伝統技法を創業以来大切に守り続けています。和紙・漆・本金箔を使った平たくて短い糸「箔糸」によって、「本金引箔」や「本金柄箔」を多用した絹織物を製織しています。
引箔とは
引箔は中国から渡ってきた技術ですが、現在では西陣や丹後の一部でしか織られていない、奥深く味わいのある希少な織物です。正倉院宝物にも使われている本金平箔や本金糸は、文献にほとんど記されていない神秘的な素材です。
当社では23金の金箔を使った「本金引箔」を主に使用しており、ピカピカに光る「光箔」と落ち着いた光を放つ「さび箔」の2種類があります。
さらに金の色味は金の含有量によって赤みを帯びるなど、さまざまな表現が可能です。これらすべてはお客様のご要望に応じてご用意する特別な糸です。

箔糸と再利用
「箔糸」は織る布のサイズに合わせて作ります。帯なら帯幅より約20cm広い和紙、当社の金襴では約90cm×60cmの和紙をベースに使用します。
この和紙の四隅は最終的に切り捨てますが、それらは織るために必要な部分です。捨てる部分にも金箔が施されているため、当社ではそれを回収し、オンラインストアで販売することで新たな命を吹き込んでいます。
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模様引箔の技術
本金引箔のほかに、模様を描いた「模様引箔」も使用しています。模様引箔は、最初から最後まで順番を間違えずに織る必要があり、高度な技術を要します。当社では上品で淡いデザインの模様引箔糸を多く使用しています。
新しい挑戦:真珠粉本銀箔模様引箔
2023年晩秋、特注で製作した「真珠粉本銀箔模様引箔」を使用した絹織物「全正絹西陣織金襴真珠粉本銀箔模様引箔」を発表しました。
箔糸の製作
和紙に銀箔や焼箔(変色加工した銀箔)を使用し、今回は真珠の粉も採用しました。
真珠粉の採用
織物に金彩加工として真珠を使うことは一般的ですが、「箔糸」として織り込むのは西陣ならではの技術です。西陣織では、螺鈿・真珠・サンゴなど海の宝石を高級素材として用いてきた歴史があります。
- 真珠養殖業者の規格外品を粉にして使用
- 金属箔の発色に真珠の柔らかさを加える
- SDGs・サステナブルな取り組みとしても有効

引箔の裁断
制作した引箔はまず紙の状態で4種類。これを裁断して「箔糸」にします。四隅を残して中だけを切断することで、織る順番を保ちやすくしています。

切断職人の技
引箔の裁断には専門の職人が必要です。今回は竹内切断所さんにて、ギロチンという大型機械で切断を行いました。紙の上下に何層も重ねてずれを防ぐ技術は、まさに経験がものを言う世界です。

引箔装置付き力織機による製織
「箔糸」は引箔装置を備えたシャットル力織機で、柄がずれないように順番に一本ずつ入れていく「順引き」という絣のような織り方で織られます。準備段階から緊張感のある織物です。
完成までの記録
下記は「全正絹西陣織金襴真珠粉本銀箔模様引箔」が織りあがるまでの動画です。
YouTubeでご覧いただけます。
未来へ向けて
引箔は和紙を細く切った裏表のある平たくて短い糸であり、その裁断工程も伝統工芸の技術のひとつです。私たちは手機・力織機の両方で引箔の製織が可能です。
先祖から受け継がれてきた技術と素材を大切にしながら、これからも西陣織金襴を守り続けていきます。
西陣岡本では、伝統工芸各社に従来の仕事を増やし、新たな仕事を創出することも使命と考えています。職人のご紹介も可能ですので、ご希望があればぜひご連絡ください。
