心を癒す、伝統の響き
京都・西陣で脈々と受け継がれてきた「西陣織」。 その中でもひときわ格式高く、美術性に富んだ織物が「西陣織金襴(にしじんおりきんらん)」です。金糸をふんだんに用いた豪華な意匠は、神社仏閣の荘厳布(打敷や袈裟など)や、かつては公家や武将の装飾布などを通じて、日本の精神文化を支えてきました。
このブログの筆者は、そんな西陣織金襴を30年近く手がけている者として、ある思いを込めて「西陣の手織りの音」というYouTubeを始めました。
職人の手から生まれる音の風景
私たちの工房では、今も手織りと力織機によって金襴を制作しています。特に手織りの現場には、機械織とは異なる「音」があります。 シャトルが動き、経糸を上下に開閉し、緯糸を一越一越織り込んでいく音。 竹べらで引箔を引く音。それらが繰り返されるうちに、まるで環境音やASMRのように心地よいリズムになっていくのです。
この手織りの音と、織り手たちの手の動きや表情、美しい経糸の色。 そうした“音と景色”をそのまま映像に収めて、YouTubeに投稿しています。下のボタンからYouTubeへ飛べます。
子守唄としての織り機の音
私がこの音を「癒し」として感じるのには理由があります。 私たちの工房では、職住一体の暮らしが長く続いてきました。 その中で育った83歳になる職人は、こんなことを語ってくれました。
「夜中にふと目が覚めたとき、織ってはる音が聞こえると“ああ、親がまだ織ってはるな”って思ったら安心できた。子守唄みたいやったなぁ。」
家庭の中に響いていた手織りの音は、誰かの安心になり、記憶になり、暮らしを支えていたのです。
映像に登場する職人たちのこと
現在、撮影している動画に映っているのは、主に1942年生まれと1947年生まれのお二人です。 どちらも西陣織の世界で長年織ってきた熟練の職人で、二人とも瑞宝単光章を受章されています。
映像は主に午前中に撮影しているため、若い織り手たちは別の仕事に回っており、画面にはこの二人が中心になっています。 二人の一越一越に込められているのは、西陣織を「守っていく」という覚悟と、「伝えていく」という意志だと私は思っています。
岡本忠雄のインタビューが下記からご覧いただけます。先日フランスからのアーティスト一団がいらっしゃった時に、一人のミュージシャンが織の音をミックスしたいと仰りました。そして、忠雄が鼻歌を歌いながら織っている音を「これ!この気持ちよさそうな鼻歌がすごく良いんだよ!」と録音されていきました。
そのミックスを早く聴きたいです。YouTubeでも彼の鼻歌がひっそりと聞こえます。
西陣織金襴の職人、岡本忠雄へのインタビューはこちらから↓
下記は西陣織金襴の職人、岡本光雄へのインタビュー記事です。
織の職人としては主に上の二人で、たまに社長が出てきます。副社長はまだ撮影できていません。
この工房全体が西陣の職人たちの技術の結晶です。手織りの織機は古い織り機を大事に使っています。所々布テープで補強したり色々と我流での修理もされていますが、元々は織機を建てる職人がいて、糸を作る、染める、整経する、綜絖を作る、ジャカードを作る、ダイレクト装置を作る、など様々な職人たちの力を合わせてこの工房の織の風景が出来上がっています。
私たちはこの西陣織にかかわる職人たちの技術を後世へ伝え、守っていく義務があるのです。
西陣織の魅力を世界へ
このYouTubeチャンネルを通じて、私たちの織っている西陣織金襴に興味を持っていただけたら嬉しいです。 もちろん、そこからお客様と出会えることも望んでいます。けれどそれ以上に、この手織りの音や風景が、これを読んでくれているあなたにとっての癒しやインスピレーションになれば、それが何よりの喜びです。
私たちが受け継いできた西陣織には、技術だけでなく、音、暮らし、空気すらも織り込まれています。 どうか、その一端をのぞいてみてください。