こんにちは。西陣で西陣金襴という織物を織っている岡本織物株式会社です。
今回は西陣からお届けするブログシリーズ「西陣からこんにちは」の第5回目です。
人類の歴史と密接に結びついてる「布」。布は、木や草、動物の毛などを薄く加工したものです。その始まりは草や蔓などをそのまま使った一次元の「紐」を使いやすいように柔らかくしたり、撚りをかけて丈夫にしていたと思われます。その後、蔓や皮を叩いて平たくしたものをつなぎ合わせたり、縦横に組み合わせたりしながら二次元の平面に進化させてきました。
平面になるように作りだした布帛(ふはく)や編地(あみじ)は人類を守り、生活を豊かにし、歴史を彩ってきました。「衣食住」すべてに布地は必要不可欠です。
皆さんが日々触れている織物がどのように作られているのか、その違いを知って、「布」をより身近に感じてもらえたら西陣織に関係するものとして嬉しいです。
今日は「先染めと後染めの違い」について書きます。この違い、意外とアパレル関係の人もご存知なかったりするんです。
糸が先か、布が先か?
布には、大きく分けて「先染め」と「後染め」の2種類があります。西陣織がなぜあれほど深みのある色合いを持ち、複雑な柄を表現できるのか。それは「先染め織物」の技術によるものです。
でも、「先染めと後染め」とは、と言われてもよくわかりませんよね。
先染め織物とは?
先染め織物とは、織る前の白糸の段階で糸を染めたものを使って織り上げる織物のことです。西陣織は先染めの織物の代表格です。一本一本の糸に色を宿し、それらを経糸と緯糸にし織り合わせることで、繊細な色合いや複雑な紋様を織り出します。
以下の写真は染める前の白絹糸です。クローズアップしてご覧いただけますか。右側と左側で糸の質感が違うと思います。左側は精練をし、右側は未精練のため、セリシンが残り、張りがあります。
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上の白糸を染めるとこのような色絹になります。まだちょっと濡れています。
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このように白の絹糸を様々な色糸に染め分けて組み合わせて一枚の布地を織るのが「先染め織物」です。
下の画像は「うまくゆく」の為の織物と「モンステラと鳥紋様」です。「うまくゆく」は白の経糸に様々な色糸と金糸。「モンステラと鳥紋様」は青の経糸に色糸と金糸を使っています。
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単色に見える部分も実は細かな色の重なりでできています。これは、糸の段階で染めているからこそ表現できる織物です。
先染め織物の特徴
- 糸を染めてから紋様を織るため、織物に立体感が生まれる
- 柄が細かく、複雑なデザインを表現できる
- 高級感があり、格式のある装いや建築物に適している
日本の有名な先染め織物
- 西陣織:京都の西陣で生産される織物
- 結城紬:茨城県結城市や栃木県小山市を中心として生産されている絹織物
- 大島紬:鹿児島県奄美大島を中心に生産される絹織物
- 播州織:兵庫県北播磨地域で生産される綿織物
高級な織物は、すべてこの先染めの技法で織られていると言っても過言ではありません。
後染め織物とは?
後染め織物とは、白い布を織った後に染める織物のことを指します。代表的なものに、友禅染めや紅型(びんがた)、藍染などがあります。その他、アパレル製品なども多くが後染めです。
下記の京友禅は京都伝統産業ミュージアムで展示されていた鶴尽しの着物です。デザインも素晴らしく、筆者はとても惹かれました。
後染めの最大の魅力は、布全体をキャンバスのように使い、自由に模様を描けること。筆や型紙を使って染め上げることで、鮮やかなグラデーションや繊細な絵柄を表現できます。
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みんなが大好きなMarimekkoも後染です。
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以下のリンクからヘルシンキのMarimekkoの染工場などもご覧いただけます。
後染め織物の特徴
- 白い布に後から模様を描くため、自由なデザインが可能
- 色のコントラストがはっきりとし、華やかな印象
- コストが安く、大量生産が可能なため、流行に合わせた染色が容易となる
日本の有名な後染め織物
- 京友禅
- 江戸小紋
- 絞り染め
- 琉球紅型
高級な染め物、手軽で身近な染め物、沢山の面白い染め物があります。
どちらが良い? 先染めと後染めの選び方
先染めと後染めのどちらが良いのでしょうか?
どちらが良いなんてことは言えません。どちらも良い点があるので、製織業者の立場からでも、「TPOに合わせて、好きなものを自由に身に着けたり使ってほしい」と思います。
ただ、慣習としてフォーマルな場面や格式ある装いにの帯には先染めの織の帯に友禅などの染め着物をと言われています。確かに 西陣織の帯は、格式が高く、長年にわたって愛用できる逸品です。確かに友禅に織りの帯は文句なく美しい。
そのような慣習も大事ですが、自由に楽しむのが一番かな?と思っています。
先染めと後染めの魅力を楽しむ
「織る前に染めるか、織ってから染めるか」
それだけの違いで、布の表情が変わるのは、とても面白いものです。
西陣織のように、糸一本一本が織り重なり、時間をかけて作られる織物。友禅染めのように、筆一本で自在に模様を描く染物。どちらも、日本の伝統が育んだ美しい技法です。
ぜひ、着物や帯や織物のインテリア製品を選ぶ際には、「この布はどのように織られたり、染めらたりしたのかな?」と想像してみてください。きっと、より一層愛着が湧いてくるはずです。
まとめ
- 先染め織物は、糸を染めてから織るもの。立体感があり、高級感のある仕上がりに。
- 後染め織物は、白い布を後から染めるもの。自由なデザインで個性的な仕上がりに。
あなたの身の回りを見渡してどこに「布」があるか感じてみてください。
この記事を書いている筆者の周りを見渡してみました。不織布やニット類を入れてもざっと、
- 着ている服
- カーテン
- 絨毯
- バッグ
- 座布団
- タオル
なんと、仕事の「西陣織金襴」と絨毯以外は全て後染めの布地でした。
皆さんもぜひ一度周りを見渡してみて、この「先染めと後染めの違い」を思い出してみてください。生産工程や生産者の顔が見えてくるかと思います。
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