こんにちは。京都上京区、西陣の金襴織屋、岡本織物です。
日々西陣村にこもっています。ここら辺から出ることは滅多にありません。微妙に街中なので近場で用事が済ませるんです。
しかし、ちょいと物を作る為に先日、東京まで行ってみました。
気が向いて浅草に行ったら「布と浮世絵の美術館」と書いてあった美術館を偶然発見したので期待せずに行ってみました。結論ですが感動しました。物を作るのが好きな(特に母親になった)女性には必見だと思います。
こちらの美術館は有名な芸能プロダクション、「アミューズ」さんの主催です。アミューズさんってサザンオールスターズ、福山雅治さん、Perfume等今をときめく方々が沢山所属されていますね~。そのアミューズさんの美術館。中々骨太な展示品を斬新な切り口でのみせ方で展示方法も良かったし、展示品が素晴らしかった。良いキュレーターさんがいはるんでしょう。
【常設展】BORO 常設展なのでいつでも大丈夫!是非御近くによられた時には行ってみてください。
日本の民俗学者・民俗民具研究家である田中忠三郎氏のコレクション。青森県下北郡川内町生まれです。青森と言えば、本州の最北端。青森の方、ごめんなさい。夏も寒く、冬は雪に閉ざされてしまう、高度成長期と呼ばれる時代でもインフラは中々末端まで届かず、寒村の多い地域と言う印象は否めません。たぶん金銭的には貧しい地域だったのでしょう。その地域の中でも必要に迫られながらも伝えられてきた節約をかねた美しい布たちのコレクションです。
アミューズの社長、大里洋吉氏が田中忠三郎氏と同郷であるということから始まったようです。
田中忠三郎 物には心がある 1000円。帰りに新幹線の中で速読の出来ない私でも一瞬で読めました。すごく読みやすく、しかし、軽くはなく、説教臭くもなく、すごく良い内容でした。なんとアマゾンでは売ってません。展示のパネルにも抜粋されて書き出されていましたがこれを読みながら展示を観たら、もう、たまりませんでした。
このマネキンさんが着てはるのは昔の布。意外とファッショナブルに見えますね。今ではわざとユーズド加工等と言ってぼろぼろにする加工があるわけですがこちらのファッションは必然的にこのような状態になってしまっています。
パッチワークも小さな布きれを無駄にしないように編み出された技法です。こちらもパッチワークと言えばパッチワークなんですが、作為的に美しい物にしようとした物ではなくて必要に迫られて自然と美しくなってしまった、その背景自体が「美」という存在です。
↑明治期から大正にかけて使われた掛け布団。表地は裂き織り。経糸は麻糸。緯糸は古い木綿を裂いて織っています。裏地には使い古した麻布を何重にもして刺しています。重さは8キロ。中に入れる物は綿は高級で手が届かなかった為古い衣類を沢山詰め込んであります。
青森は寒いですから・・・温かくする為の少しでもの工夫ですね。
綿は暖かくないと育たないのですが麻は寒いやせた土地でも育つ丈夫な植物です。種は食用にもなります。人間にとって有意義な植物です。日本では神道にもつながる神聖な植物ともされてきました。麻は夏には良いんです。風を通して汗を乾かしてくれます。夏の麻は最高!しかし、夏の短い寒い青森では・・・冬に麻の繊維は厳しいなあ。というのが私の印象。リネン(亜麻)のような高級布地ならまだしも、青森だったらヘンプ(大麻)だろうし、ごわごわでしょうから。
そして糸を撚った事のある人だったら解ると思いますが、自分で麻を裂いて、糸にするってしんどいと思います。手がすぐに割れるでしょう・・・。その苦労を思っただけで泣けてきます。
↑メリヤスの下着。メリヤス編みは温かく伸縮性があるので大事に大事に継ぎ足しながら使われました。
↑手織りの麻糸の学生服。
珍しい女性の腰布&大人用おむつ。下着類は人知れず処分される事が多いので中々残っていないそうです。
↑赤ちゃん用の着物。紐が赤いのは女の子用だったからではないかとの説明書きがありました。いつの世でも可愛い子供には可愛い服を着せたいと言う親心ですね。
↑「ボドコ」着古した麻の着物を土台にして麻や木綿の着物を幾重にも縫い重ねて作った布。この布「ボドコ」は御産の時に使用したらしいです。なのでこの布には多産だった女性達の何回分もの羊水がしみこんでいるそう。中々迫力のある布です。洗ってあるのかな・・・。ちなみに「ご自由にお触りください」という方針でしたので触る事も可能です。さすがに匂いはかぎませんでした。この布の上で新しい命が生まれてきたと言う事実、それを大事にとってあるということに昭和生まれの平成を生きる女は衝撃を受けました。
↑着物の形をした布団「ドンジャ」。私も子供の頃「かい巻き布団」を使っていました。子供心に変な形の布団やな、と思っていましたが祖母が「これは襟があるから首のところに隙間風が入らず温かいのだ」と言っていたのを覚えています。しかし、袖口から隙間風が入るやんか、という私の心の叫びは心の中で消化していました。たぶん大きめの着物をそのまま布団としてリユースしていた名残なのでしょう。この「ドンジャ」は麻の布に木綿や麻の古布を継ぎ足し継ぎ足し、少しでも暖かいように麻糸を紡ぐ時に出たくずを中綿として詰めてあります。上の画像がその中綿である麻くずがちょろちょろと出て来ているところ。青森の南部で大正まで使用していた物です。かなり重たいです。これを当時の人たちは寝る時には裸で家族で寄り添い人肌で暖めあいながら「ドンジャ」をかけて寝ていたそうです。
↑この「ドンジャ」は非常に重たくて14キロもあるそう。重たいけれども少しでも温かく寝るための創意工夫が積み重なった重たさなんでしょう。ほんまに重たかったです。
↑上の画像3点は大小さまざまな大きさの足袋。この説明書きを読んだ時には涙が止まらなくなりました。なくなったおばあさんの持ち物の中から出てきたそう。いづれ生まれてくるだろう子供や大きく育っている子供、そしてすでに大人になった子供達のために沢山作って残してはったらしいのです。そしてそのいづれも小さな布一枚を無駄にしないように大事に大事に縫い合わせて丈夫で、足を守ってくれるように作っていたそうです。愛です。
↑の画像は手袋。こちらも大事に大事に縫い合わされています。母の手編みの手袋ははめていましたが、こんな小さな布をはぎ合わせたような物は私は身に付けた事がありません。もちろん時代が違います。そこまで貧しい時代を生きた事はないのです。私だったらここまで出来るやろうか・・・。もちろん技術的には可能なんですが・・・。なんだか色々考えてしまいます。
私は21世紀の母にしてはかなり「もったいない」派なので子供の服などにも体裁構わずどんどん継ぎをします。靴下も穴が開いたら縫います。しかし・・・やはりある程度継いで行くとそこに現れるのは世間体の壁。いくらなんでもこれはひどいやろ・・・と言う事でそのズボンは半ズボンになり、そしてウェスとなる運命にあります。
普段エコを意識して「物は大事に最後まで使おう」と御題目にしている割には・・・この北方のリユース精神に直面して、はたと立ち止まってしまいました。
↓こちらは特別展「ワークウェアを超えたアート」
私の写し方ではよく解らないかもしれませんが、さすが芸能プロダクション。斬新な展示方法です。とても明治大正の服とは思えない躍動感あふれる展示方法にびっくりしました。
↑↓上下の画像をお比べください。たぶん同じ物。
収集カードによれば昭和54年、87歳でなくなったおばあさんが大正時代にこしらえた股引。「タッツケ」と呼ばれています。刺し子です。織り模様とちゃいますよ。なんて美しい。クリックして大きな画像にしていただければわかるかも・・・。↓刺し子がわかるように拡大してみました。クリックしてみて下さい。大きくなります。
↓このように小さな布たちも大事に大事にしまわれて、大事にされていたそう。
↓こちらは噂に聞いたことのあった鮭革&アザラシの革のブーツ。背びれ部分は足の底で滑り止めとなっていたそうです。
その後、黒澤映画に提供した服などを拝見した後、浮世絵を見ながら階上に上っていきます。そして浮世絵についての説明映像を拝見したのですが、この映像もすごく面白いつくりになっていました。なんとも不思議なのが来館者の少ない事。今回の東京訪問では何箇所も美術館やギャラリーを巡ったのですが、一番面白い展示だったと思えるのに一番人に会わないでゆっくり見られる美術館でした。お客としてはとても良かったのですが、勿体無いなあ。
屋上にも出られて浅草を眺める事が出来ます。OH!今まで見てた青森の継ぎの服が信じられないような近代的なスカイツリー!そして↓は継ぎの精神で始まったけれど今や豪華絢爛な物になってしまっている袈裟や打敷を沢山コレクションしているであろう浅草寺。(それを言い出したら金襴屋の私の仕事がなくなっちゃうんですが・・・)
私は西陣の金襴織屋です。正絹、本金糸を使い非常に豪華絢爛な布を日々生産しています。今回拝見した継ぎの様な布とは真逆の方向性を持っています。古くなった金襴は継いで使うと言うより織り直して新品に仕立てます。うちの金襴を使って作る小物も自然と高級品になります。もちろん、持った人が「大事に使いたい。子供にも託したい」と思えるような、そして持った時に心浮き立つような製品を作りたいと思っています。
なのに・・・今回の「BORO」にはやられました。私の存在意義からして考え直しました。
そこで自分の中で「日々の生活では節約はもちろん大事。一つの物を大事に直しながら使おう。しかし、時には心の潤いが必要なんじゃないか?その潤いの布を私は織ろう」という事にまとめました。
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