大阪ガスの季刊誌「住まう 2024年83号」に当社の取り組みに関して掲載されました。
新しい発想を託して織りなす「西陣織金襴」のきらめきを暮らしの中に
歴史ある織物のまち・京都西陣
高級織物として世界に知られる西陣織のなかでも、ここ岡本織物は100年以上にわたり、きらびやかな絹織物「金襴」を手がけてきました。現在四代目社長を務める岡本圭司さんとの結婚を機に、この業界に飛び込んだのが、北海道出身の絵麻さんです。二人はそれぞれ、別の美術大学で学んでいた東京の地で出会い、ものづくりを生業にしたいという共通の思いから、圭司さんの家業に入ることを選択しました。絵麻さんは「母の仕事が繊維関係で、私自身も大学でファイバーアートを専攻していたので、西陣織にも興味がありました。京都の伝統ある家に嫁ぐことにためらいはなかったですね」と、おおらかな笑顔で振り返ります。
岡本織物では創業以来、神社仏閣で使用され、金銀のきらめきと鮮やかな色彩で極楽浄土を表現する織物を主な専門としています。圭司さんはすぐに手織職人としての修業に入り、今も現役で織機に向かうお父さま、叔父さまに続き伝統工芸士の称号を得るまでになりました。かたや絵麻さんは、検反と呼ばれる完成品の検査のほか、織物の設計図にあたる「紋意匠図」の製作や広報など、子育てや介護と両立しながら徐々に仕事の幅を拡大。関わるほどに、岡本織物ならではの金襴の魅力に強く心 惹かれるようになりました。「でも神社仏閣にお納めする従来の仕事では、どんなに優れたものを織り上げても当社の名前を出せないのが残念で…この素晴らしさを、もっと多くの人に伝えたいと始めたのが、オリジナルの意匠づくりです」。テキスタイルデザインは絵麻さんの得意分野。 琴線にふれる事象を図案にするのは楽しい作業でした。完 成したものをS N S にアップするうち、徐々に反響を得られるようにもなってきました。次なる課題は、それをいかに 商品にするかということ。「当初は流通の仕組みもわかっておらず、さまざまな人に教えを乞いながら試行錯誤を続けました」と語る絵麻さん。持ち前のバイタリティとフットワークで人とつながり、興味を持ったものには積極的に挑戦し続けています。そこからジャンルをまたいだコラボによる商品開発や海外市場の視察など、新しい展開が次々に生まれています。
その一方で、昔から分業制によって高い技術を維持してきた現場では、スキルを持った職人の高齢化が進み、存続が危ぶまれる工程や道具が出てきてい ます。「私たちが一番危機感を持っているのはそこで、このままではもう後がありません」と、絵麻さんは表情を引き締めます。「技術を途絶えさせないためにも、これからの伝統工芸は職人自らがプロデュースして販売力をつけていく必要があります。西陣に限らず、京都に数ある伝統工芸同士がチームを組み、業界全体で協力しあうことで、新しい製品・販路が生まれるはずで す」。このようにして新しい需要をつくり出し、利益を分配できる体制を築くことこそが、よりよいものづくりの未来につながる道のひとつ。絵麻さんたちの信念は、西陣、そして伝統工芸の可能性を力強く広げます。
丁寧に取材して頂いた株式会社プランニングハウス・ウエストの皆様、ありがとうございました。
巻頭特集は「ペットと暮らす住まい」です。