引箔(ひきばく)とは何か
西陣織に受け継がれる金箔表現の技と未来
引箔(ひきばく)とは、和紙に金箔やプラチナ箔、銀箔を張り、細く裁断し、糸として織物に用いる西陣織独自の高度な技法です。

金属の輝きをそのまま織物の構造に取り込みながら、布としての柔らかさや耐久性を成立させる点に大きな特徴があります。
現在では作り手、織手も限られ、引箔という織物は西陣織の中でも特に希少性の高い技術のひとつとなっています。
本記事では、引箔の基礎から技術的特徴、表現の魅力、そして現代における可能性までを体系的にまとめます。
1. 引箔の歴史と西陣での発展
引箔は、金襴や有職織物、帯地など、格式と耐久性、そして美しさが同時に求められる分野の中で発展してきました。
特に京都・西陣では、寺社装飾の為の金襴や有職織物、能装束などを通じて、技術が磨かれ、継承されてきました。
引箔は単なる装飾技法ではありません。
光の反射、時間の経過、織物全体の構造との調和など、布として成立させるための設計が不可欠な技法です。
そのため、織りの工程以前の段階である、引箔を作る段階から織屋も深く関与することが必要です。
2. 引箔の技術的特徴
2-1. 箔を「糸」にする技
引箔は、金属箔を和紙に貼ったり、模様を描きいれたりした和紙を極細に裁断することで糸状に加工します。
箔の厚みや裁断幅は、織りやすさや仕上がりの美しさを大きく左右します。
見た目には同じように見える引箔でも、こうした条件の違いによって、光の出方や布地としての表情は大きく変わるため、引箔を扱う織屋は自分たちの基準に合わせて「引箔糸」を特注します。

2-2. 織りへの影響と難しさ
引箔は非常に繊細な素材であるため、張力や摩擦、組織設計のバランスが少しでも崩れると、切断や剥離が起こりやすくなります。
そのため、通常の糸とは異なる織設計と、経験に裏打ちされた調整が不可欠です。
引箔は、織り手の判断力そのものが品質に直結する技法といえます。
技術工程の詳細については、以下の記事で詳しく解説しています。
3. 本金引箔という存在
引箔の中でも、純度の高い金やプラチナを用いた本金引箔・本プラチナ引箔は特に希少な存在です。
古来愛されてきたように、「金」は「銀」は色味の深さ、輝きの品格、そして経年変化の安定性において、他の素材では代替できない魅力を持っています。
一方で、素材コストと加工難度の高さから、本金引箔・本プラチナ引箔は量産には向きません。
そのため、用途や表現意図を明確にした上での制作が求められます。
実際の取り組みや制作事例については、以下の記事をご覧ください。
4. 引箔が生み出す表現の魅力
引箔の魅力は、単なる「金色」や「銀色」、「和紙に描かれた模様」だけではありません。
光を反射する角度による表情の変化、織組織と一体化した奥行き、経糸・緯糸との関係性が生むリズムが重なり合い、見る環境によって印象が変わる布地を生み出します。
工業製品にはない微細な揺らぎこそが、引箔が持つ大きな価値のひとつです。
表現面の特徴については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
5. 現代における引箔と未来
現在、引箔は伝統的な帯地や装束用途にとどまらず、アートテキスタイルやインテリアなど、新たな世界からも再評価されています。
重要なのは、「技法を守ること」そのものではなく、技法の本質を理解した上で用途を更新していくことです。
引箔は、設計・素材・表現意図との対話を通じて、今後も進化していく可能性を持った技法だと考えています。
将来展望や応用については、以下の記事で詳しく触れています。
6. まとめ
引箔は、西陣織の中でも技術・美意識・設計思想が凝縮された技法です。
箔を糸として扱う高度な技、織物として成立させるための知恵、そして現代へとつなぐための工夫が重なり合い、今日の引箔は存在しています。
本記事を起点として、各詳細記事もあわせてご覧いただくことで、引箔という技法をより立体的に理解していただければ幸いです。
