西陣織と金価格の高騰
西陣織に欠かせない「金の糸」。
私たち西陣岡本では、日本でも希少になってしまった「本金の糸」を多用する西陣織金襴を織り続けています。当社の西陣織金襴本金別織には本金糸を使っている事を保証する「西陣織工業組合発行の本金証紙」を添付して納品しています。
その「西陣織金襴本金別織」に危機が訪れています。

金価格の高騰が伝統工芸に与える影響|西陣織の未来
1978年から2024年までの金価格推移を示す以下のグラフをご覧ください。報道されているように金の高騰が止まりません。金価格は近年、驚くべき上昇を見せています。日本経済新聞 金、史上最高値圏での推移が続く 死角はあるか

- 1978年:1,500円台
- 2020年:6,000円台
- 2023年:9,000円台
- 2025年現在:17,000円超
金価格の主な上昇要因は以下の通りです
- 世界情勢の不安: 地政学的リスクや国際関係の緊張により、金が安全資産として注目されています。
- インフレヘッジ: インフレに伴う現金価値の低下を補う手段として、金が選ばれています。
- 中央銀行の金購入: 外貨準備の一部を金に切り替える国が増加し、金需要が拡大しています。
- コロナ禍の影響: 経済不安の中で、金の需要が急増。
- 円安の影響: 歴史的な円安も金価格高騰の一因です。
金の値上がりが西陣織に与える影響
私たちは和紙に漆を塗り、金箔をはり、細く裁断し、その裁断したものを芯となる糸に巻き付けた「手押し本金糸」を多用しています。金糸は、単なる装飾ではありません。織物の「格」を決める重要要素であり、金糸を作る職人の技術と美意識の象徴です。

以下のURLから伝統的な本金引箔&本金糸の作り方をご覧いただけます。
しかし、金価格の高騰は西陣織を含め本金を使う伝統工芸の制作現場に深刻な影響を与えています。
- 金糸の仕入れコストが2倍以上に跳ね上がり、制作費を圧迫しています。
- 布地販売時に価格転嫁が難しく、利益率が減少しています。
- 金糸の代替ができず制作維持が困難になりつつあります。
伝統を守るために、私たちは今、葛藤の中にいます。いつ金糸を買っておくのか。まとめ買いをしておくのか。しかしまとめ買いをすると金糸屋も一時は良いけれど、コンスタントに買い続けるのが一番安定して良いので、一気に買うと結局は金銀糸業界に対してあまり良い結果にはならないでしょう。
西陣織で使われる本金糸の種類

本金漆地手押一掛
石川県で本金箔を作ります。金箔は紙で挟んだ金を何千回も叩き伸ばします。弊社が使っている4号箔の金の純度は94.438%。なぜ100%ではないかというと、100%の金は柔らかすぎて、薄い金箔にしづらいからだと聞いています。紙に漆を塗り、貼り、裁断した短い糸が「本金引箔糸」。糸を芯にして巻き付けたものが「本金糸」です。弊社では通常、4号箔の色の本金糸を使用しています。蛇足ですが金閣寺は4号色の金箔を貼っているそうです。
蒸着金糸
ポリエステルフィルムに金を蒸着し、被膜を構成し、細くスリットし、糸にします。金の量は製品そのものには多く使われていませんが、蒸着作業には使用する量の三倍以上の金を必要し、非常に手間がかかります。金糸にする場合のポリエステルフィルムには裏に紙を貼ります。芯にする糸は100デーニルか120デニールで一掛の糸になります。弊社でもお客様からのご要望があれば時々使用します。
紛金糸
これは上記の蒸着金糸の安いバージョンです。ポリエステルフィルムに銀やアルミニウムを蒸着したもので、弊社が使用している紛い金糸は裏に紙を貼っています。フィルムの反対側に金着色、もしくはあらかじめポリエステルフィルムに金着色をして金糸のようにします。これは種類がかなりあり、安っぽい金糸から本金かと思えるような金糸まで様々です。
弊社では力織機での製品はほぼ、こちらの銀蒸着紛金糸を使っています。本金製品は本金だと明確にしています。
それでも本金糸で西陣織を織る理由
なぜ、そこまでして私たちの西陣織に本金糸を使い続けるのか?それは「本物の輝き」が、見る人の心を打つからです。
- 金は酸化せず、劣化しないため永遠に輝き続けます。これはピラミッドや古墳などの埋葬品からもわかります。
- 光の反射が織物に立体感と深みを与えます。金の反射が暗い室内をリフレクター(反射板)としても活用され、神々しさがより一層増す儀式等の演出としても使えます。
- 金を身につけていることで気持ちが豊かになり、安心や満足感を得られるともいわれ、古来より愛用されてきました。
本金糸で西陣織を織ることは、単なる装飾ではなく、文化と精神性を織り込む行為なのです。
私たちは金の鑑定士ではありません。しかし、本金と紛い金では何かが違うのです。当社で使う紛い金糸は上等のものを使うので遜色はないのですが、それでもやはり本金と紛い金糸では何かが違います。これは私たちでは数値化したり、言葉で表したりできません。長年見比べてきた勘とでもいうのでしょうか。
今、私たちが西陣織を存続していくためにできること
この「金の高騰」による伝統素材本金糸の値上げという状況を乗り越えるために、私たちはいくつかの挑戦を始めています。
- 海外市場へ西陣織金襴についてSNS(Instagram、Red NoteやWeChatなど)の発信を続けていく。
- 金糸の使用量を抑えつつ美しさを保つデザインの研究をすすめる。
- 金糸の価値を伝えるストーリーテリングの強化。
- 金価格の変動を伝えることで、製品価値への理解を促す。
金の高騰に負けないくらい、今までの通り、「織る」という事以外の分野で、金の高騰による諸問題を解決していかないといけないと思っています。
読者の皆さまへ、西陣織の伝統を支えるのは、あなたの“共感”です
西陣織は、単なる布ではありません。様々な素材、複雑な織り組織、そこには、沢山の職人の技と心、そして時代を超えて受け継がれてきた「美意識」が織り込まれています。金糸の輝きが、これからも未来へと続くように。どうか、私たちの挑戦に耳を傾けてください。そして、もしよろしければ、実際に手に取って、その輝きを感じてみてください。

弊社は94.438%純度の金箔を使った金糸を使っているという証明です。
私たちの挑戦を応援したいと思ってくれた方、ぜひSNSをフォローし、最新の情報をご覧ください。