西陣岡本 西陣織の手織り職人 岡本光雄 会長 伝統工芸士
忠雄の弟(6人兄弟の4番目)として1947年に生まれる。その緻密な技術は、厚い信頼と評価を得る。
2014年西陣織に対する貢献で伝統産業技術功労者、2023年瑞宝単光章を受章。
もともと職人になる気はなく高卒後の就職先も決まっていたのですが、アクシデントがあって急遽家業に入ることになりました。ずっと家と職場が一緒だったし、織機にこそさわらなくてもおつかいや作業など手伝いに駆り出されることがあり、糸には馴染んできたので、それほど抵抗はなかったですね。
織の技術についても、基礎的な手ほどきを受けわからないところを教わりながらも、けっこう最初から仕事を任されました。初心者であっても、ゆっくりやるとそこそこのものはできます。ただ、職人である以上スピードが要で、採算が合うよう仕事をしないといけません。また、芸術家なら納得のいかないものができてしもたらほかせばいいけど、職人は必ず期限を守ってええもんを納めないといけない。常に品質の高い仕上がりを保つことが、店のねうちにもなっていきます。そのためには、毎日コツコツと仕事を積み上げていくことが基本です。少しでも休むと同じ時間をかけないと取り戻せませんし、あせって失敗したり傷をつくったりしたら、また元に戻って織り直さないといけません。体調もようないと、ええもんが織れません。そんな厳しい仕事ですが、織物を一人で完成させることには喜びがありますね。朝から晩まで織機に向かいっぱなしとはいえ、決してずっと同じことをしているわけではなく、柄ごとに織り方も変えなければいけないし、絶えず工夫が必要です。それが面白いと思える自分には向いている仕事やと思います。
もちろん納めた先でよう織れたなあと褒めてもらえると嬉しいです。お寺に納めるものは一片10mを超えるような大作も多く、後世に残るものをと気合の入った仕事になります。何枚かを繋いで完成させるので、別々に織ったものの絵柄が最後に合うことが必要で、気候や湿度も日々変わる中、寸法に狂いがないよう縮み率も考えて作業しなければなりません。もちろん、織り手だけでなく、図案、紋紙、さまざまな職種の人が息を合わせてこそできる仕事でもあります。毎回しんどいし体力も気力も使いますけど、仕立てあがりでパチっと柄が合ったのを見るとすっとします。
西陣で育てていただけたおかげで一生の仕事として続けられ、気づけば評価をいただくようになっていたことを、誇りにも思います。まちは時代の流れとともに寂しくなってきましたが、石にかじりついてでも残らないといけないと思っています。そのためには、前を向いて新しいことを考えていくことが必要でしょう。かといって古いものを切り捨ててはいけない。受け継いだ技術があってこそ、新しいことが考えられるのですから。その意味で、私はこれからも若い人たちに背中を見せ続けたいと思います。
(2023年11月13日取材/文・森本朕世)