展示会4日目|西陣織の背景にある“受け継がれた時間”
結婚式の朝、文化の違いにふれる一幕
最終日の朝。ホテルのロビーは思いのほか騒がしく、朝早くから外に停まっていたのは、煌びやかに装飾された婚礼用の車。
「こんな朝早くに?」と思わずお世話になっている中国の方に尋ねると、「結婚式の日は朝から新郎の友人が新婦を“奪いに”行くんです。大勢で家に押しかけて、新婦を迎えに行くのが習わしなんですよ」と笑いながら教えてくれました。
儀式にユーモアを交える中国式の婚礼文化に、思わずほっこり。ドライになりがちな日本との違いも感じつつ、朝からとてもおめでたい風景に出会えて幸先のいいスタートになりました。
新会場の視察:上海展覧センターという建築遺産
展示会前に、来年から「デザイン上海」が移転予定の新会場である上海展覧センター(旧・中ソ友好大厦)を見学させていただきました。
1953年に着工、1955年に竣工。ロシア様式の建築でありながら、中国的シンボルが共存する唯一無二の建物です。金色の尖塔ときらびやかな中央ホールは圧巻で、まるで歴史の中に入り込んだような感覚に包まれました。
デザイン上海は最初はここから始まったそうです。周りにも高級ブティックが立ち並ぶこの地だと、更に便利な立地としてデザイン関係者などが来やすいのだろうなと考えを巡らせました。
会場に戻れば、西陣織に注がれる熱いまなざし
会場に戻ると、最終日とは思えぬほどの熱気に包まれていました。土曜日ということもあり、一般の方の来場が特に多く、ブースには次々と人が押し寄せます。
私のブースの前では西陣織をご覧になられた中国の方たちが「これは絵ですか?」「何でできているんですか?」という質問が飛び交い、その都度、糸の構造や技法、図案の由来などを丁寧に説明することで、深い対話が生まれました。
丁寧に説明をしているつもりでも言葉も違う中で、しっかりと伝えるために次回はもっと準備をせねばと強く思いました。
私たちはまずは「西陣織」について知っていただく必要があります。どのようにしたらちゃんとその価値が伝わるのか常に考えていますが、これからもブラッシュアップしながら伝え続ける必要があると強く感じました。
このブログを読んでくださっている方で質問がありましたら是非、お問い合わせやSNSより問いかけてください。「私たちには当たり前」のことでも「お客様に伝えていくために必要なこと」を教えていただけたらとても嬉しいです。
SNSとともに広がる“西陣織の現在地”
今回の展示会では、WeChatやRed(小紅書)といった中国のSNSが非常に効果的な発信ツールとなりました。
来場者の多くがその場で西陣織の写真を撮り、ハッシュタグをつけて投稿し、フォロワーと情報を共有してくれます。「この得も言われぬ質感が“引箔”という技法なのか」といったコメントや、「中国から伝わった技術が日本でここまで進化していたとは」という反応も。
以下は弊社のRednote(小紅書)のアカウントです。

以下のボタンは私たちが運営している代表的なSNSをまとめたlit.linkです。ぜひフォローしてください。筆者が喜びます。
「引箔」への注目と、消えた技術の背景
展示ブースで特に多く寄せられた関心が、「引箔(ひきばく)」と呼ばれる技術についてでした。これは和紙に金属箔やラッカー塗料などで装飾をし、細く裁断して、緯糸として織り込む西陣織特有の表現技法です。
実はこの技術の本流は「本金引箔」といい、このルーツは中国にありますが、現在では中国本土でこの技術を維持・発展させている地域はなく、京都が唯一の製作可能とも言える場所となっています。
「なぜ中国では消え、日本では残ったのか?」 会場ではそういった問いを投げかけられることもあり、文化の継承と変容について考えるきっかけになりました。ざっと言えば、中国では国が変わる度に今までの文化を捨てることが起こり、最近では文化大革命で打撃を受けたとは思うのですが、それがすべてなのかどうかは私にはわかりません。
以下のページでは引箔について詳しく書いています。わからないことがありましたらお問い合わせよりお問い合わせください。一生懸命考えてお答えします。
片づけと“静かな余韻”
17時、展示会場のクローズと同時に、4日間の集大成ともいえるブースの撤収作業が始まりました。梱包を進めながら、一つひとつの作品に宿った出会いや対話の記憶を思い出し、胸がじんわりと温かくなります。そして、撤収時には空調も消えるので実際に体も熱くなり、作品と空気が身体に染み込んだ4日間だったように感じました。
この記事を書いているのは日本に帰ってきてはや3週間は経ったころですが、まるで昨日のことのようです。
中国を代表するアーティストとの出会い
この日最後の予定は、去年出会った日中友好協会の仕事をしていらっしゃった銭会長からのご紹介で、中国の著名アーティスト 王小慧(Xiao Hui Wang)氏との会食でした。搬出作業の後、急いで向かいました。写真・彫刻・メディアアートを中心に世界的に活動する王氏は、蘇州市に彼女の名を冠した美術館が建てられるほどの文化的存在です。
彼女の上海にある王小慧芸術館での面会となりました。「死生観」や「愛」をテーマにした彼女のアートを拝見します。
彼女の表現があまりにも幅広く、本当にびっくりしました。
美術館の入り口には彼女の作品である赤い唇の彫刻が掲げられ、館内の企画は様々な企業や個人とのコラボレーションによるものであるとご本人が仰っていました。
AIを使ったプロジェクションマッピングも体験してきました。
王小慧氏から食事をごちそうになったのですが、「日本の方は北京ダックが好きだと聞いて、今日はそれを用意したの」と、私たちに温かいおもてなしをしてくださいました。
日本文化への敬意を感じる気づかいと、彼女の創作の裏にある深い悲しみと喜び、哲学にふれることで、西陣織の表現にもまた新たな視点を入れていく必要があると感じた夜でした。
最終日の終わりに
ホテルに戻ったあとも、出展メンバーでささやかな反省会。言葉を交わしながら、それぞれの印象に残った瞬間を共有し合い、展示会の締めくくりとしてゆっくり夜が更けていきました。
疲れましたが、とても楽しい毎日でした。
明日はホテルを移動して中国の伝統工芸を伝える事業を拝見に行くブログです。再見!